賃貸契約中の物件を売却する際の法的ポイント

2025年6月24日

不動産を売却しようと考えたとき、その物件がすでに第三者に賃貸されている場合には、通常の売却とは異なる法的な配慮が必要になります。借主の権利が優先される場面や、契約の引継ぎ、場合によっては立退きの交渉まで発展することもあります。本記事では、賃貸契約中の物件を売却する際の法的な注意点と、実務上のポイントを解説いたします。

1. 借主の権利は守られる

日本の法律では「借家権(借地借家法)」により、借主の居住権が強く保護されています。賃貸契約中の物件を売却しても、基本的には賃貸借契約は存続し、買主がその契約を引き継ぐ形になります。

1.1. 「売却=契約解除」にはならない

  • 借地借家法第31条:賃貸中の物件が第三者に売却された場合、借主の賃貸借契約はそのまま存続します。
  • 売却によって契約が終了することは原則としてなく、買主は「新たな貸主」として借主に対して契約を履行する義務を負います。

1.2. 登記の有無による対抗力

  • 賃貸借契約が登記されている場合、買主はその契約を無視できません(対抗力あり)。
  • 登記がない場合でも、借主が現に使用している(引渡し済み)状態であれば、事実上の保護を受けます。

2. 売主・買主・借主それぞれの関係

2.1. 売主の立場

  • 借主がいる状態で売却することは可能ですが、買主の理解を得る必要があります。投資用として購入されるケースが多くなります。
  • 賃料収入や賃貸借契約の内容を事前に整理・提示しておくことが大切です。

2.2. 買主の立場

  • 買主は、借主の賃貸借契約をそのまま引き継ぎます。契約内容(賃料、契約期間、更新条件など)を事前に把握しておく必要があります。

2.3. 借主の立場

  • 売却によって突然の退去を迫られることはありません。契約期間中は原則として住み続けることができます。
  • ただし、買主からの立退き要請に応じる場合には、立退料などの条件交渉が発生します。

3. 立退き交渉を行う場合の注意点

3.1. 正当事由が必要

  • 借主に退去を求めるには、「正当事由」が必要です。単なる売却や再開発だけでは認められにくく、代替物件の提供や立退料の提示が求められます。

3.2. 任意の合意で進める

  • 借主が任意で合意すれば、契約を途中で解除することも可能です。この場合は、立退料の金額や引越し期限などを明確に取り決めた「合意書」を交わします。

4. 実務上のチェックポイント

4.1. 賃貸借契約書の確認

  • 契約期間、更新条件、保証金・敷金、契約形態(定期借家か普通借家か)を正確に把握しておくことが必要です。

4.2. 借主への通知・説明

  • 売却の事実は、信頼関係を損ねないためにも事前に借主へ丁寧に説明するのが望ましいです。

4.3. 売却価格への影響

  • 居住中の状態では内覧が難しくなるため、価格が下がることがあります。一方で、安定した賃貸収入がある場合は投資物件としての魅力が増します。
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まとめ

賃貸契約中の物件を売却する場合、借主の権利が強く保護されているため、法的ルールに則った慎重な対応が求められます。借地借家法の理解はもちろん、契約の引継ぎや立退き交渉には正当事由と合意が不可欠です。売主としては、契約内容の整理と丁寧な説明を心がけ、買主・借主との信頼関係を構築することで、スムーズな売却を実現しましょう。


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